people

夫婦と猫と。アトリエのある団地暮らし

西田達矢さん・麻紀さん・チルちゃん

高蔵寺ニュータウンにゆかりをもつ建築家・工務店による団地リノベーションユニット「ダンチテクツ」。そのお客さん第一号である西田夫妻。麻紀さんの両親が残したUR団地をリノベーションし、夫婦と保護猫のチルちゃんが仲良く暮らしています。

01

ここに戻ってくると
思っていなかったけれど

会社員の達矢さんと画家の麻紀さん、保護猫のチルちゃんが暮らすのは、藤山台のUR団地。麻紀さんが幼い頃から18歳で家を出るまで暮らし、その後も両親が住み続けていましたが、介護の末に両親を看取った後は空き家になっていました。

あるとき、麻紀さんが友人から高蔵寺の団地再生を手がけるプロジェクトがあると聞き、休みの日に夫婦でモデルルームを訪れました。そこでダンチテクツのメンバーと出会い、好感をもった二人。両親が残した団地をリノベーションすることに決めました。

「正直、ここに戻ってくるとは思っていませんでした。両親が亡くなった後は足を運ぶのが辛くて、手つかずのままになっていたんです。ダンチテクツさんから前向きな話をしていただき、夫が荷物を片付けてくれて、ようやく動き出すことができました」(麻紀さん)

01

オルゴールが鳴り出して…
汗と涙の遺品整理

リノベーションをすると決めて、まず取りかかったのは3年ほど空き家となっていた家の片付けです。

「片付けは大変でした。昔の人だし、歳をとると捨てることができなくなるようで。真夏の暑い最中に2トンの荷物を整理しました。整理もだいぶ佳境に入ったころ、荷物の中から遺品のオルゴールが突然鳴り出したんです。それが妙に切なくて、涙がぽろぽろとこぼれたのを覚えています」(達矢さん)

がらんどうになった部屋はガラスにひびが入っていたり、床が傾いていたり。あちこちにガタがきていました。それでも、窓の外には緑あふれる景色が広がり、部屋を通りぬける気持ちのよい風を感じられる。昔ながらの団地のよさはそのままでした。

01

住まい手に寄り添う
ダンチテクツのリノベーション

西田夫妻とダンチテクツが取り組んだリノベーションのテーマは「アトリエと猫」。

画家の麻紀さんにとって、自宅にアトリエをもつのは念願でした。リビングに隣接する一部屋をアトリスペースとして確保し、アトリエの壁には有孔ボードを採用。制作中の絵画を壁に飾り、確認しながら進めたいという希望を叶えました。

保護猫のチルちゃんにはキャットウォークやステップ、タワーなどを随所に設置。家の中を自由に動き回れるようになっています。チルちゃんが唯一入室を許されないアトリエは、リビングと隔てる壁の一部をガラススクリーンにして、人と猫がお互いをガラス越しに眺められるようになっています。

達矢さんが重視したのは設備面。市の補助金を活用して、団地の寒さ対策として断熱材補強や内窓を設置。現代の生活では足りない契約電力の制限を補うにはポータブル電源を活用しました。さらに団地にはない浴室乾燥機を付け、機械換気を工夫して設置することで、浴室とトイレの2室換気を可能にし、エアコンスリーブを利用した吸気口も設けました。

01

住むための魅力に
あふれたニュータウン

さまざまな工夫で古い団地の物理的・設備的な不具合をクリアにしてみると、人が快適に住むために造られた団地の魅力にあらためて気づきました。

「当時建てられたUR団地は棟間隔にゆとりがあり、周囲には植栽や公園がたくさんあって、今ではあり得ない贅沢な土地の使い方をしています。おかげで窓からの景色は遮るものがなく、空が広くて緑が多い。森林公園の中に家があるような感覚です」と達矢さん。

「私はまるでツリーハウスみたいって思います。窓を開けると、家でも外にいるかのように風を感じられるんです」と麻紀さん。

カメラが好きな達矢さんは、引っ越してから散歩が日課になったとか。「ニュータウンは歩車分離になっていて、歩道や緑道がたくさんあります。目的地まで、どのルートを通るかで景色もアップダウンも全然違う。カメラを持って近所を散歩するのが楽しいんです」

01

ニュータウンでの新しい
暮らしをつくっていきたい

達矢さんは転勤が多く、夫婦はこれまでいろいろなまちに住んできました。

「高蔵寺ニュータウンはよくも悪くも特殊な環境だと思います。ベビーブームの受け皿としての役割を果たしてきましたが、今は空き家も増えています。住居にこだわらず、セカンドハウスやアトリエなど、新たなものが入ってきたら面白いんじゃないかな」(麻紀さん)

「私たちはリノベーションしたときに、設備面の改修について調べても情報がなく困りました。だから、今後団地をリノベーションしたいという人がいればなにか役に立てたらと考えています。これからは地域に積極的に関わっていきたいですね」(達矢さん)

団地のよさを生かした新しい住まい方。西田夫妻の暮らしに、ニュータウンの可能性が見えてきます。